院試について(創造情報学専攻)
はじめに
東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻の修士入学試験に合格しました。2020年4月入学です。学部では航空宇宙工学をやっているので院から専攻を変えることになります。大学院の外部受験については情報が少なく、先代の方々の院試体験ブログがかなり役に立ったところがあるため、僕も同じことを企んでいる人の助けになることを願って軽く振り返っておきたいと思います。
もくじ
どうやって出願先を選ぶか
外部受験を視野に入れることで(受かるかは置いておいて)あらゆる専攻の研究室を希望することができます。多くの専攻では主に直属の学部・学科から学生を受け入れています。大抵の専攻では対応する学科の学部生より若干多い定員を設定しているので、外部からの進学が想定されていないことはありません。ただし、受験者の大半を占める内部生と渡り合う必要があります。院試に必要十分な知識に学部の講義で触れ、おそらくは過去問など潤沢な資料を共有している層が大半という意味です。
一方で、下に直属の学科を持たない大学院オンリーの専攻というのも存在しています。柏の新領域などがそれで、僕が受けた創造情報学専攻も情報理工学系研究科6専攻の中で唯一学部を持たない専攻です。この場合は内部生も外部生もほぼ同じ条件で試験に臨むということになります。
また、研究室の所属先についても確認しておくといいと思います。そこのボスが2つの専攻を兼担している教授というケースが少なくなく、この場合は両方の専攻から学生を募集することになります。片方の専攻には学部から来る人が多くて厳しいけど、もう片方では外部オンリーの枠になっているような場合は後者に出願するといい気がします。
そういうことを勝手に考えたうえで、出願先を
- 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 (-> 本エントリのネタ)
- 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻 (-> 次エントリのネタ)
の2専攻に決めました。
出題形式とか
- 英語(TOEFL iBTスコアレポート提出 or 情報理工学系研究科一斉実施のTOEFL ITP)
- 数学 or プログラミング
- 専門科目(電子情報、システム情報、数理情報、コンピュータ科学、創造情報の中から選択)
- 口述試験
という感じになっています。2×2×5=20通りの受け方があります。多すぎ。
まず英語についてですが、基本的にはスピーキングとライティングがないITPが楽かと思います。いちおうiBTは何度も受けられる(受験料バカ高いけど)のと今後留学とか考えてる場合にスコアを利用できる可能性があるという利点があります。
数学にもオプションがあるのが本専攻のユニークなポイントです。情報理工の共通数学か、世にも珍しいプログラミングの院試を受けることになります。研究とかインターンとか競プロとかで日常的にコード書いてる人にはわりかし平易な出題が多い感じだったのでそういう人はプログラミングでいいかなという感じでした。(あくまで出願時点の感想です。後で述べるのですが、今年の問題がゲロ難しかったので来年以降はこの限りではないかもしれません) 数学は範囲が広いしぱっと見結構重たいです。でもプログラミングほど難易度が乱高下しなさそう。
専門科目は5択です。これに関してはどれを選ぶと死ぬみたいなことはとりあえずなさそうなので、出題形式とか自分の学部時代の講義内容を考慮して好きなのを選べばいいと思います。大雑把な傾向としては
- 電情:150分。5問から3問選択。電気電子回路、アルゴリズム、信号処理、情報理論、論理回路、コンピュータアーキテクチャ
- システム:120分。5問から2問選択。信号処理、電子回路、制御工学、論理回路、アーキテクチャ、力学
- 数理:180分。5問から3問選択。がっつり数学が出ている以上のことはよくわからない。
- CS:90分+90分。3題必答と6問から2問選択。線形代数、電気電子回路、アルゴリズム、論理回路、コンピュータアーキテクチャ、オートマトン、プログラミング言語
- 創造:180分。3問必答。アルゴリズム、論理回路、コンピュータアーキテクチャ、語句説明
という感じです。
最終的に
- TOEFL ITP
- 英語に勉強時間割くのが勿体なかった
- 併願していた複雑理工ではITPしか選択肢がなかったのでまとめて対策したかった
- プログラミング
- システム情報
- 試験が短い
- 制御・力学など学部でやったことがまあまあ出る
で選択しました。
スケジュール
2月中旬 サークルを引退した。その翌週ぐらいに「勉強するか〜」と思って最初に参考書を買った気がする。ただこの時点では何もわからないのであまり深く考えず読み物感覚でゆっくり読み始めた。CSと創造でどっち受けるか迷っていた。
4月下旬 志望を創造情報に固める。併願先も探して決めた。プログラミングで受けることにしたのでこの時点で数学の勉強を放棄。
5月下旬 院試説明会を聞いて専門科目の形式がわかったので、システム情報で受けることにした。
6月 ちんたら参考書読んでインプットしていたのが大体済んだので参考書の章末問題とかやり始める。
7月 過去問に着手した。
8月下旬 本番
対策
買った参考書を淡々とレビューします。
英語
メルカリで安かったのでやたらたくさんの参考書を買った気がしますが多分そんなにはいらないです。
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1冊で全セクション対策できる上に模試が付いてるお得な本。なんかやたら難しい。リスニングとか特に。
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リスニング重点的に対策したい人はどうぞ。シンプルにボリュームが多くて満足。クソマニアックなイディオムとか出てたまに腹が立つ。
全問正解するTOEFL ITP TEST文法問題対策 ([テキスト])
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文法やりたい人向け。別にそんなに難しくないので演習量こなさなきゃ不安な人だけやればいいぐらいな内容です。
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公式問題集。新品で3000する割になんと1セットしか収録されていないぼったくり仕様。いちおう難易度はもちろん体裁とかもほぼ本番まんまなので本物志向の人はどうぞ。
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単語帳。最後の方ヤケクソみたいに難しい単語が載っていてマニア向け。
時間をかけたくない人はとりあえず一番上のだけやってけば最低限のエッセンスは得られると思います。あとは自分が弱いジャンルを個別につまみ食いするような感じで。
一応目安として550点取ってればビハインドになることはなくて600あると優秀な部類だとか言われています。記事執筆時点では模試等受けたことがない僕には何も言えませんが。
プログラミング
まずはレギュレーションから説明すると、
言語は自由
1冊だけ紙媒体の書籍をリファレンスとして持ち込んでいい
自分のマシンに保存したリファレンスやコード断片は自由に使っていい
という具合です。過去問を見ればわかると思いますが、毎年傾向も難易度もかなりバラバラでこれが決定的に効くという対策は正直わかりません。ただ競技プログラミングみたいなアルゴリズムを設計することに重点をおいた出題というものは殆どない気がします。これで終わると身も蓋もなくなってしまうので、いちおうやっておかなければ死ぬ可能性があることを挙げておくと、
入出力のやり方を抑えておく。標準入出力、txt、csv、バイナリファイルなど。
手元のリファレンスを充実させておく。知らない操作を要求された瞬間死が見えるので何でもかんでも自分のマシンに放り込んでおくといいです。
ぐらいですね。競プロライクな問題が出にくいとはいえ、問題数をこなすことはいろんな操作を体験することに繋がるので、そういう意味では競プロの過去問埋めるみたいなことはまあまあ有効だと思います。
専門科目
上で述べたとおりシステム情報学を選択しました。出題形式は例年
となっていて、今年は2問選択でした。ここ数年のうちは同じだと思います。選ぶべき問題数が少ないので、1~2問は最初から対策しない捨て問にするという選択も有効だと思います。僕は電子回路だけ切って残り4つから解けそうなもの2つを選ぶことを想定していました。
・信号処理
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これで大体の範囲はカバーできるのですが、そもそも毎年出題意図が掴みづらい難問が出るので選択しないほうが賢明な気がします。
・制御
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古典制御と現代制御が大体交互に出てきます。出題も比較的易しいので取ったほうがいいです。
・コンピュータアーキテクチャ
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パタヘネ。この分野では一番有名な教科書です。名著なだけあって難しいので、2周ぐらいするとだんだんわかってきます。教科書の分量としては絶望的に膨大なのですが、出題のパターンはいくつかしかないので過去問をこなせば十分得点源になると思います。
・論理回路
- 作者: 坂井修一
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この本がバイブルです。めちゃくちゃわかりやすいです。問題も割と楽なのですがあまり出ないので出たらラッキー程度に。
・力学
- 作者: 今井功,高見穎郎,高木隆司,吉沢徴,下村裕
- 出版社/メーカー: サイエンス社
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大体の理系は一生のうちどこかで触れてそうなので勉強量としては少なくてすみます。たまに超簡単な出題があるのと、他が死ぬほど難しいときのセーフティネットになる可能性があるので取ったほうがいいです。
本番
英語
他の科目より早い8月上旬の実施でした。会場が法文一号館の大教室で音響が激ヤバやろなぁ・・・などと思っていたのですがそうでもなかったです。目立つ事故は起こりませんでした。
プログラミング
昨年までの問題を解いた感触は良好で、得点源ぐらいに考えて完全にナメていたのですが、悪夢のような難易度でした。暗号化と復号の実装を主にさせられました。実装すべきアルゴリズムがそもそも馴染みのないもので方針が立たなかったり、執拗にバイナリファイルを読み書きさせられるなど、詰みポイントが尋常じゃなく多かったです。
専門科目
例年の稼ぎポイントだったアーキテクチャで過去十数年出ていなかったプロセス間通信についての出題があり、ノータッチなので当然解けない。信号処理も相変わらず難しそうなので消去法的に力学と制御を選んだのですが、これらも決して平易な出題ではなく、全体的に苦しかったです。
口述試験
第一希望研究室の先生から、やりたい研究と得意科目(なんでや)を聞かれました。3分ないぐらいのあっさり感でした。余談なのですが創造情報の口述試験は筆記の翌日ないし翌々日と異様に早いので、まあその時点じゃ筆記の結果は出てなさそうだしその出来で質問が増えたり減ったりはしないだろうな、という意識があって比較的リラックスしていました。
総括
試験勉強自体は特段うえーしんどい死のうみたいな感じではなかったのですが、自分の立ち位置とあとどれくらい頑張ればいいのかということが全く見えないのはしんどいですね。あとはわからないことに出くわしたときに気軽に教えを仰げる人間が近くにいないので、間違った理解のまま突っ走っているのでは?という不安もところどころありました。そこは周りと違う院試を受ける上で覚悟しておいたほうがいいかもしれません。まあでも情報をしっかり集めて万全の備えで臨めばきっとうまく戦えると思うので、本エントリを読んで気になった人はぜひやってみてください。